香山哲さんの『スノードーム』を読んだ。
まず、フォーマットが良い。さくさく話が進むなかに、切手くらいの精緻な絵が貼られている。章立てもくっきりとしている。
それから、作者が何を大事に考えているかが、よく分かる。物語自体は、とある雑貨屋の中で起こるフィクションだけど、混乱の中でどう人と関わり合っていくかということについて作者の意見がくみとれる。といって、押しつけがましくはない。
普通、なにかを制作するときには「目的があって、そのための手段がある」という説明で割り切れないところが多い。「描きながら気づいたことがある」、とか、「新しい技術があるから、何かを作ってみよう」、とか曖昧になってしまう。それはそれで自然でよいことだと思いつつ、目的がぼんやりとしたとたん、「絵がきれい」とか、「文章の言い回しが上手」とか、技巧の話になってしまうことも多い。
一方で、香山さんの作品では「伝えたいことがあって、手段がある」と説明をされている。それは実はとても稀有なことだと思う。そして、その目的が的確なフォーマットで達成されている。挿絵が小さいからこそ、そして文章の言いまわしが平易であるからこそ、いつにもまして、伝えたいことが光っている。