ジュリア・ブライアン=ウィルソンによる『アートワーカーズ』を読んでいて、自分が引き込まれる部分は、筆者がこの60年代の運動の難しさ(成功と言いきれない側面)に慎重に向き合っているところだと思う。
「歯切れが良すぎない」、とも言える。「反戦」という強い抗議メッセージから少しだけ距離を置いて、自身の仕事/労働について時間をかけて見直す、という姿勢をとったアーティストや批評家が丁寧に取り上げられる。
だから、細かいディテールや、どのニュアンスを強調するか、ということが重要になる。例えば、ソル・ルウィットのウォールドローイングについての記述のなかで、ルウィット自身が行った第一作目の製作がいかに骨が折れるか、というのを長々と書いている。「...さまざまな方向(水平、垂直、対角)..」「...細い黒鉛で描かれたその薄いグレーの線...」等々。
そのディテールの細やかさと主張の慎重さがあるので、あまり美術批評になじみのない自分にも、なにか身の回りの物事と関連付けたくなるような、そのような親近感をどことなく覚えた
あ、親近感と言えば、訳者あとがきを読んでいたら驚いたことがあった。翻訳の過程で、江戸川橋にある「コ本や」で読書会をしていたらしい。「コ本や」僕が江戸川橋に住んでいたときによく通っていた本屋さんで、雑居ビルの2階にある。
翻訳の仕事もとても丁寧だなと思ったのだけど、そういうことだった。買ってから1年近く積んだままにしてしまって、もう「コ本や」のある江戸川橋からは引っ越してしまったけど、また行かなければならないなと思った。